思考の道場

答えのない、問いのまわりをぐるぐると。

ドイツ 冬

ドイツの冬は、長い。

 

大抵の日は曇っている。曇っている日の空は、同じようでよく見ると違う。

 

見ているこちらも気が滅入ってくるような、どこまでも続く曇りの日もあれば、

遠慮がちに青空が顔をのぞかせている曇りの日もある。

 

色という色を吸い込む鉛色の雲りの日もあれば、濁ったマーブルの光る曇りの日もある。

 

冬の空は、低い。圧迫感がある日もあれば、包み込んでいるあたたかさを感じる日もある。

 

冬の雲はすべてのものを私たちの代わりに抱え込んで、今にも何かが零れ落ちそうだ。その抱え込んでいるものを、落っことしてしまれば楽になるだろうに。

 

木々は、一度も葉をつけたことがないかのごとく、枝の息遣いしかしない。

でも近くで見ると、枝の先にはつぼみがついている。

つぼみは中性的な少女を思わせる。堅く閉じていて、みずみずしく、それでいて着々と花開く準備をしている。

 

朝はやってくるのが遅い。だから遅く起きても、あの朝もやに浮かぶすっとした空気を、晴れた日は味わうことができる。

空はむきたての卵のようにつるっとしていて、それでいて地面には靄がかかっている。

朝日は上ることなく、そのまま西日になる。あのギラギラした夏の勢いを置いて、弱々しい光。色も違えば表情も違う、でも太陽を一番愛おしく想う季節。

 

ドイツの冬は、長い。冬を深めながら、春を目指している。

私は冬を見る。味わうのではなく、自分を空っぽにして、冬を通す。

 

冬にかれらは、何を見るのだろうか。

 

冬物語―ドイツ (岩波文庫)

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