乾いた文体
乾いた文体が、好きだ。
パサパサした文体。
簡潔で、あっさりしてて、それでいて小気味よく、テンポよく。
感情をこまやかに描くのではなく、
行動の描写の反復で推し量る。
べたっとしたねばっこい文章も好きだったけど、最近専ら乾いた文体を読みたくなるのは、住んでいる土地にもよるのだろうか。
乾いた文体といえば、ヘミングウェイ。
- 作者: アーネストヘミングウェイ,高見浩
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2006/05/30
- メディア: ペーパーバック
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『武器よさらば』は、戦争描写、戦争からの逃走、イタリアからの脱走、妻の出産そして死と、できごとが立て続けに続いていくのだけれど、劇的なシーンであればあるほど、描写は抑えてある。感情の描写は少なく、主人公が目で見た事実の羅列が続く。
その淡々とした描写は、読者の共感を拒むようで、読み終わった後は特に感慨深くならないのだけれど、その文体は身体の中でじわじわと発酵していくようだ。
日々過ごしていると、私たちの感情はおかまいなしに、できごとは次々と起こる。好むと好まないとにかかわらず、できごとに遭ってしまうときは遭ってしまうし、死なない限り、そのできごとを抱えて生きていく。
ヘミングウェイの文体は、そのような感情を置いてけぼりにしてしまうできごとに、ある意味備えるように、耐性をつくるように、できている気がする。
同じくヘミングウェイ。
こちらは彼が若い頃パリに滞在した日々を綴ったもの。
食べ物の描写が多くて、食べ物の描写を味わいたいとき(無性に何かが食べたくなるように、無性に食べ物についての文章が読みたくなるときがある)にはぴったり。
ビールに牛乳入りコーヒー、パンにソーセージ。
「移動祝祭日」という日本語訳も好き。
移動遊園地みたいで、きらきらした宝物がぎゅっと詰まっているようなイメージ。
若者を惹きつけていた当時のパリを、端的に表していると思う。
そして食べ物の描写といえば、何といっても村上春樹。
村上春樹の小説に出てくるレシピ本があるくらいだから、よっぽど読む人を美味しそうにさせるんだろう。
テンポのよい文体で、日常の描写も細かくて乾いた文体の代表格だなあと思う。
反対に、べたっとした文章が無性に読みたくなるときもある。
しつこいくらいの、まどろっこしい心理描写。
風景の描写も、感情が反映されていて、こちらは読んでいてなぜだか寂寥感が募ってくる。
その古い一軒家は駅からかなり離れた住宅街にあった。巨大な公園の裏手なのでいつでも荒々しい緑の匂いに包まれ、雨上がりなどは家を取り巻く街中が森林になってしまったような濃い空気がたちこめ、息苦しいほどだった。
『哀しい予感』の冒頭部分。ここを読むだけで妙にノスタルジックな気分になるのはなぜだろう。失ったものが何かすらもう思い出せないような、寂寥感。
くどくてまどろっこしい母の手による、娘の描写。
1という感情を10という描写で描いている。
堀辰雄といい太宰治といい、時に女性が書く心理描写より、繊細でリアル。リアルなんだけど、どろどろした感じはなくて、美しい。
さて、小説は中身である内容か、果たして外側である文体だろうか。