思考の道場

答えのない、問いのまわりをぐるぐると。

電線すら愛おしい / 新海誠「言の葉の庭」

ヨーロッパと言えば、の後に続くのは数あれど、そのうち早めに出てくるのが「綺麗な街並み」じゃないでしょうか。

 

ドイツも都市によりますが、古い町並みを残しているところはこっちが飽きるくらい建物の外観が統一されています。

翻って日本。特に東京をはじめとする都会は大変ごちゃごちゃしています。私はそのごちゃごちゃに慣れていたのでそれが嫌ってほどではなかったんですが、ドイツの街に慣れると、東京ももうちょっとすっきりというか綺麗というか疲れない街並みにならないかなと思うものです。

 

そんな私ですが、これを見ると無性に東京に帰りたくなります。

 


映画『言の葉の庭』予告編映像

 

新海誠監督による映画。現代の東京の街並みが描かれているのですが、ただ綺麗なんじゃなくてすごく現実的に細部まで描かれてます。綺麗な空や葉っぱや水たまりだけじゃなくて、電線やエレベーター、ごったがえしたホーム。身の回りに溢れている、綺麗じゃないもの。

でもそれすら美しいと、愛おしいとこれを見ると思ってしまいます。灰色のエレベーターに落ちた鈍い鍵、雨に濡れた信号のライト、汗をかいたグラス。

美しいものはいくらでも身の回りに転がっていて、それを美しいと思えるのかは自分次第。

美しいものに出会うと、生きててよかったな、と世界を肯定して見れるんですよね、きっと。

 

合唱に「信じる」という曲(谷川俊太郎作詞)があって、その中に「葉末の露がきらめく朝に 何をみつめる小鹿のひとみ すべてのものが日々新しい そんな世界を私は信じる」という歌詞が出てきます。日々何かが生まれ変わっていくこの世界を、信じるという肯定で捉える背景には、世界を美しいと思えるかが肝となっています。

 

そしてそんな風に世界を肯定できたら、信じられたら、きっと自分の手で表現したいなと人は思うんじゃないでしょうか。絵であれ、写真であれ、言葉であれ、音楽であれ。

 

新海監督も、思春期の不安定な時期に綺麗な風景に救われていたそう。

 

ちなみに「言の葉の庭」では風景だけじゃなくて、人物描写も抑制が効いていて、その分仕草や態度が詳細に描かれています。

靴職人を目指す主人公の少年(高校生)が、雨の日に出会った女性の靴を作るために彼女の素足を手に取るシーンがあるのですが、アニメーションでこんなにどきどきしたのは初めてです。

よく考えると素足をさらけ出す・その素足に触れるって、そもそも素足でいることが少ないのであまりないですよね。素足でいる場所って言ったら専ら靴下やストッキングを脱ぎ捨てた家の中が多いので、親しい間柄じゃないと目にすることないし、ましてや目の前にさらけ出すなんて。(え、だって匂いとか気になりますよね...?)

でも映画のこのシーンは雨の中の新宿御苑で、それが尚更非日常を作り出し、そして互いが知らず知らず心を許し合っているのを見せられて、雨の中に晒された無防備な素足が妙に色っぽくみえます。

 

リアルな描写・実写的な演出なので、普段アニメを見ない人、アニメ・マンガ的な表現が苦手な人にもおすすめです。(目とか不必要に大きくないです)

 

★★★

上記では「言の葉の庭」を挙げましたが、この監督で有名なのは「秒速5センチメートル」でしょうか。

今夏には最新作が発表されるそうです。わくわく。ポスト宮崎駿か、とも言われてるみたいですね。

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