思考の道場

答えのない、問いのまわりをぐるぐると。

【Webエッセイ】東京というまち。

 

ドイツから東京に戻ってきました。ドイツの中でものんびりしているという東ドイツの街ドレスデン(人口たったの50万だけれどドイツで11番目に大きい都市)から帰ってきたので覚悟はしていたけれど、一日一日がびっくりする速さで終わっていく。駅の発車メロディやぴかぴかの電光掲示板やエスカレーターの途切れることを知らないアナウンス(エスカレーターでは立ち止まらず黄色い線の内側に立ってお進みくださいエスカレーターでは……)なんかを見たり聞いたりしている間に、一日が終わっているんだからびっくりだ。こんなに情報に囲まれていたのかと愕然とする。母語だから当たり前なんだけれど、全部聞き取れるし読めるがゆえに、耳や目に意識せずとも飛びこんできてしまう。

 

途切れない人の流れと途切れないアナウンスのがやがやに追い立てられるように、半ばそんな東京や日本から逃げ出すようにしてドイツに行ったけれど、ドイツでびっくりするくらい落ち込んだりして、どこまで行っても自分からは逃げられないんだなあとやっと身をもって知った。でもばかみたいに時間かかっても知れたからこそ、東京に戻ってきてもある種の息苦しさは感じずにすんでいる。すごい速さで人も情報もアナウンスも電車も時間も流れていく中で、一人ぷくぷく泡みたいに浮かんでくる疑問に囲まれて立ち止まっている気がして、空気が薄いなあなんて思っていた。けれど、自分の内側の流れを意識して別の流れを隣にそっと、ひざの上で眠っている猫を起こさないように、そっと置けば、私の隣を駆け足で降りていく人たちを、少しだけ遠くから見ることができた。

どこにいたって、内側の流れをそっと隣に置くこと。東京のいいところいっぱい知っているからこそ、そういった部分を好きでいたいからこそ、あえて距離を置く部分をつくる。そしてそれはきっと、東京だけじゃないはず。

 

 

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ドレスデンドレスデン。 

 

追伸。東京の一日が速いのは日没が早い(ドイツは10時くらい)からという理由に今気づいた。でも今気づいたので追伸で失礼します。夏の夜長もいいですね。