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思考の道場

答えのない、問いのまわりをぐるぐると。

【Webエッセイ】数々の試練をくぐりぬけてきたのは、あなた。

作品レビュー Webエッセイ
引越しの多い、人生でした。

生きてきた年数はそんなに長くないけれど、私は同じ場所に3年以上住んだことがない。だから住んだ場所の数は増えてく一方だったけれど、本の数は一向に増えなかった。引越しがしみついているのか、私は自分の部屋にいるとつい、次何捨てようかなと考えてしまう。特技は今流行りの断捨離。

でも本はやっぱり捨てられない。そう思いつつ、一番重くてかさばるのが本だから、引越しのたびに数々の試練が課される。大体の本は売ったり譲ったりして、気づいたら本棚からこぼれ落ちていった。

だから子どものころに読んだ本は全然ない。たまにふと思い出して懐かしくなって、タイトルが思い出せないからぐぐったり、本屋の児童書コーナーに行って探したりする。子どものころに読んだ本をいつか自分の子どもに読み聞かせてあげるのとか、憧れていたんだけれど。

現在の本棚を見ても、懐かしく感じる本が少ないのは、引越し人生の悲しいところである。

そんな私の本棚でほぼ唯一懐かしく感じられるのが、佐藤多佳子の「サマータイム」だ。たぶん中学生くらいで読んだもの。

この本の透明感から離れがたくて、数々の試練を乗り越えて、今も私の手元にある。

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ストーリーが面白いという小説ではない。でも、忘れられない夏のシーンがあちこちに散りばめられている。道に散らばった、怖いくらい鮮やかなツツジとか、海のようにしょっぱい、ボールいっぱいの手づくりゼリーとか、真っ白なピアノの、ひんやりとした鍵盤とか。

夏の終わりは愛おしくて、忘れがたくて、この本は夏を、子ども時代を、私の代わりにちゃんと残しておいてくれてるんだろう。

そろそろ本格的に秋がやってくるから、今年も「サマータイム」で夏を締めくくろうか。

あなたの手元に残った本も、おしえてください。
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