思考の道場

答えのない、問いのまわりをぐるぐると。

すぐそばに、あるもの。生死をめぐる「海街diary」漫画考察(&「ノルウェイの森」)

漫画のレビューが続きます。今回取り上げるのは、吉田秋生海街diary」。

 

海街diary 7 あの日の青空 (フラワーコミックス)
 

 「死」はどこにある

綾瀬はるか広瀬すずらが主演の映画作品もあるから、知ってる人も多そうな作品。映画は「かもめ食堂」や無印良品、オーガニック野菜などと相性よさそうなものに仕上がってましたが、漫画の方が家族関係をもっとどろどろ描いていたり、古典的なギャグ描写があったりと濃いです。

 

主人公は、鎌倉に住む4姉妹。彼女たちを中心に、家族や地域社会、仕事や恋愛、部活と言った誰もが通る普遍的な問題を描いています。その中でもけっこう描かれているのが、人の生死。4姉妹の父の死を発端とした物語は、姉妹の長女幸が看護師をやっていることもあり、この物語を貫いているテーマでもあります。

 

最新刊の7巻では、次女佳乃の上司にまつわる生死の話が出てきます。勤め先の銀行で借金を抱えた人のために奔走し、なんとか返済のめどがたち、感謝された。なのに、その矢先に、ふっと自分から死なれてしまう。返済のめどがたって、さあこれからというときだったのに、なぜーという疑問を抱え込んでしまった上司(であり好きな人)に、佳乃は言います。

「死は生きることの先にあるのではなく、影みたいにいつもそばにある」と。

 

朝起きたときはそんなこと思ってなかったけれど、たまたま線路の前に行ったとき、ふっと影が濃くなった。

 

ノルウェイの森」との関連

私はこれを読んで、村上春樹の「ノルウェイの森」を思い出しました。冒頭部、「僕」の回想の中でも、太字で強調されている「死は生の対極としてではなく、その一部として存在している」という、あの言葉を。

 

周りの人に自ら死なれてしまったとき、問いざるをえない「なぜ」。でも死ぬことがいつも生きることのそばにあるんだったら、ふっとあちら側に行ってしまうことも、起こり得る。

 

それは一つの真理であり、また残された人がその人の死を受けとめるための、一つの知恵であるのだろう。

 

★★★

ドイツに行っていた間、たくさんのテロが起こった。パリ、ベルギー、ニース、ミュンヘン、ぱっと浮かぶものだけでもこれくらいはある。人はいつ死ぬかわからないという当たり前のことを、初めて肌が知ったときだった。「死」はありありと、すぐ手の届くところにあった。

「すぐそば」に、「すぐ隣」にあることは怖いことなんじゃなくて、当たり前のことだった。だからこそ、この「海街diary」の言葉は、ある意味勇気づけてくれる言葉でもあるのかもしれない。

 

★★★

海街diary 1 蝉時雨のやむ頃 (flowers コミックス)

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ノルウェイの森 文庫 全2巻 完結セット (講談社文庫)

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かもめ食堂 [DVD]

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