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思考の道場

答えのない、問いのまわりをぐるぐると。

ハリポタファンは必見。父と子をめぐる物語―「ハリー・ポッターと呪いの子」感想/考察

ハリーポッター最新作、8番目の物語、「ハリー・ポッターと呪いの子」を読みました。脚本形式だしスピンオフというか、後日談というか、まあそんな期待してなかったんですが、読み進めるとぐいぐい魔法界へと引き込まれていきました。ハリーポッターを読んできた・見てきた人、ハリポタファンなら必見です。あんまりこんな言い方しないけれど、でも本当に読まなきゃ損です。

 

面白かった~だけで終わらせるにはもったいない小説(スクリプト)なので、以下印象に残ったところを書いていこうと思います。

主なテーマは、3組の父と子の関係性と、セドリック・ディゴリーの死の意味について。

思いっきりネタバレしているので、まだ読んでいない方はぜひ読んでから見てみてくださいね。脚本なので従来よりもさらっと読めます。

 

三組の父子とは?

読み終わってまず印象に残ったのは、父と子をめぐる話だったということ。この話には三組の父と子が出てくると思っています。一つはハリーと二番目の息子アルバス。二つ目はヴォルデモートとなんとびっくりその娘デルフィー。何でもベラトリックス・レストレンジとの子なのだとか...。そして三組目は、ダンブルドアとハリーだと思っています。

 

ハリーとアルバスは上手く行っていません。アルバスは、ハリーの息子として見られること、比べられることにプレッシャーを感じています。また、ハリーに認められたい、という想いを持っています。でもハリーは、上手くその想いをくみ取ってあげることができていない。大事は思っているものの、どうもぎくしゃくしてしまう。ちょうど思春期の子どもと親の関係のよう。

 

ヴォルデモートの娘デルフィーは、父に会ったことがありません。そんな父に会いたい一心で、(というと誇張表現かもしれませんが)、逆転時計で過去に戻り、ヴォルデモートに会おうとします

結局会うことはできないのですが、ヴォルデモートに扮したハリーと会話する中で、デルフィーがどれほど父に会いたく、そして認められたく思っているかがわかります。

 

さて、この二組の父子を見てふと思ったのが、ダンブルドアとハリーって父と息子みたいな関係だったんじゃないかということ。ハリーはダンブルドアを尊敬し、信頼し、時には恐れ、自分を頼ってくれない、何も教えてくれず命じることだけはすることに怒り...と、様々な態度を見せます。実の父親ジェームズよりも、名付け親シリウスよりも、ダンブルドアとの関係の方がたくさん描かれている。

7巻の「ホグワーツの戦い」で、ハリーが一度死んだとき、キングスクロス駅で出会うのはジェームズでもシリウスでもリリーでもなく、ダンブルドアなのです。

 

ハリーは今回の「呪いの子」において、アルバスとの関係を探りながら、実はダンブルドアとの関係性を振り返っているんじゃないか。それを踏まえてから、アルバスとの関係を築いていくんじゃないか。それが読み終わって私が思ったことです。

そういえば、アルバスの名前はダンブルドアから取ってつけられたんですよね。ハリーとの関係性が描かれるのが長男のジェームズではなく、このアルバスだというところにも、暗にダンブルドアとハリーの関係が意識されているんじゃないか...なんて思ってしまいます。

 

大人になったハリーの世界にはダンブルドアはいないのですが、肖像画を通じて、ハリーは今回もダンブルドアと話をしています。この話においてダンブルドアと話すのは2回。

一回目にハリーは、アルバスをどうしたら危険から救えるか、というのをダンブルドアに聞いています。ダンブルドアの答えは「ハリーはこの子(アルバス)への愛でものごとが見えなくなっている」(P.148)とのこと。

 

さて二回目に話すときに、ダンブルドアは、自分こそ「愛で目が曇っていた」と言います。ハリーは、アルバスを愛しているのにもかかわらず、愛のないところにおきざりにし、孤独にさせました。

ハリーはダンブルドアに、あなたも僕を同じようにしたー10年間もバーノン家のところに放っておいたーと責めます。(P.336)ダンブルドアは自分がハリーを愛しているということを、認めようとはしませんでした。

 

ダンブルドアは公平であろうとし、また、自分が愛すると必ず傷つけてしまうからと、ハリーを(息子のように)愛していたことを認めようとしてこなかったのです。

ハリーもまた、アルバスだけでなくみんなに優しいとジニーに指摘されます。でもアルバスはそれゆえに、孤独を感じてしまう。かつてダンブルドアがハリーにしたことを、今度はハリーがアルバスにしているのです。


愛の問題点について

今作ではダンブルドアを通じて、愛するがゆえに生じる問題を描いています。先ほど述べた「愛ゆえに目が曇る」です。

ハリポタシリーズにおいては、愛の重要性がことのほか強調されてきました。ハリーが生き残ったのもリリーの愛による魔法ですし、ヴォルデモートが持っていなくてハリーが持っているものは愛だと、ダンブルドアは繰り返しハリーに言っています。


でも現実世界では、愛ゆえの悲劇はさまざま。「あなたのためを思って〜」というのが悲劇の素になることは往々にしてあります。今回ダンブルドアは、愛ゆえに、ハリーを守ろうとして、孤独なところに置き去りにしたことを認めたのです。

そしてハリーも、アルバスへの愛ゆえに、アルバスを守ろうとして、親友のスコーピウスから引き離そうとします。


ダンブルドアは愛ゆえにハリーを孤独にしたことを謝り、そしてハリーを愛していたことを伝えます。ハリーもまた「私もあなたを愛していました」と伝える。

ダンブルドアを許し、愛していたと伝えることで、ハリーはアルバスに向き合ううようになります。


このよいにこの物語は、ダンブルドア→ハリー→アルバスという、父と子をめぐる構造になっています。


なぜセドリックなのか

さて「呪いの子」で一番意外だったのが、4巻のセドリック・ディゴリーをめぐる物語であること。彼は4巻の三校対抗試合で、ヴォルデモートに「意味もなく」殺されてしまいます。そんな彼は、ヴォルデモートに「よけいな者」と言われました。

 

ハリーの息子アルバスと、ドラコの息子スコーピウスは、ハリーのせいで殺されたセドリックを助けようと過去に戻ります。


でも、なぜセドリックだったんでしょう?物語内ではセドリックのお父さんが出てくることでその理由は示されますが、メタ的に見ると、ハリーの周りで亡くなった人は大勢いるので、「なぜセドリックなのか」という疑問は残ります。

なぜなら、セドリックよりも印象的なーメジャーなー亡くなったキャラクターはたくさんいるからです。スネイプ、ダンブルドア、ハリーの両親、ルーピンにトンクス…。

 

それでも4巻でしか出てこなかったセドリックに焦点があたったのは、何か意味があったんじゃないか。

私が思ったのは、「名もない人の死」を弔うということ。作中でメインキャラクターでなかったセドリックの死は、そのときは大変ショックだったけれど(私はセドリックの死以降、ハリポタのトーンが変わった、シリアスになってい、ったように感じた)、巻数を経るごとに忘れられていきます。少なくとも私はそうでした。

 

でも「呪いの子」で出てきたセドリックのお父さんのように、ハリー達の側ー読者側ーはあまり覚えていなかったとしても、その死をずっとひきずっている人はいます。

 

現実世界でも、災害や戦争、テロにおいて、名もなき人達ー一般市民ーがたくさん亡くなることがあります。でも彼らの名前は、表に出てくることはない。70人や110人、5000人と言った数字にひっくるめられる。次の大きな被害があったら、その人たちは、忘れられてしまう。

次の大きな死ーシリウスとかダンブルドアとかスネイプとかーがあったあとに、セドリックの印象が薄れたように。

 

でも、「名もない人」も誰かにとっては忘れられない人であるし、世界のほとんどの人は、この「名もない人」だ。そして平和は、名もない人たちが、つまり私たちが、日々を無事に暮らせるように願うものだ。「名もない人」の死は他人事にしがちだけれど、広い文脈では自分事のはずだ。

 

だから最後、アルバスとハリーがともにセドリックのお墓参りに行くシーンで終わる。セドリックを悼むために。その死を、「名もない人」の死を弔うために。マグル界の私たちもそういった人たちの死を忘れず、弔うように。

 

呪いの子って誰のこと?

「呪いの子」の原題は「the cursed child」で、意味としては「呪われた子」です。この呪われた子って誰のことなんでしょう?

ハリーポッターという「魔法界のヒーロー」の息子である、重圧を感じているアルバスかもしれないし、ヴォルデモートの子だと噂されているスコーピウスかもしれないし、ヴォルデモートの実の子であるデルフィーかもしれないし、過酷な運命を背負ったハリー自身かもしれません。

私は誰でもあり得るかなと思っています。「Harry Potter and the cursed Child」というタイトルを素直に受け取ったら、アルバスかなという感じです。

 

そういえば、今回の話ではドラコとジニ―の意外な関係がわかります。ドラコは、ハリーたち三人の友情がいつもうらやましかったとハリーに言います(P.179)。それを受けて、ジニ―は「私もそうだった」と。

また、ドラコもヴォルデモートも、孤独だった、だから暗い方へと引き寄せられていった、そしてジニー自身もそうだったと認めるような発言をしています。ジニーも「秘密の部屋」でヴォルデモートにのっとられたことがありますね。二人を描くことで、ハリーたち3人の友情がどれだけ強固なものだったのか、ハリーが暗い方向へ行かなかったのは、ハーマイオニーとロンがいたからだということが、間接的にわかります。

 ★★★

ハリーポッターは初めて手にとって以来もう10年以上は経ちますが、今だに小さいころと同じように、ハリポタ界に引き込まれます。つらいときにハリポタがあって助かったことも、シリウスの死が哀しくて号泣したこともよく覚えています。


この引き込まれる力こそがハリーポッターの魔法だなあなんて、小さいころは、そして今でもそう思っています。

★★★

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